千年の革づくりのまち・姫路を舞台に、素材と表現の可能性を探るアーティスト・イン・レジデンス「L-AIR」が始動した。皮革産業とアートの交差点に立ち上がったこの取り組みは、伝統産業の可能性をひらく試みとして注目に値するものである。
▶︎ L-AIR 公式サイト

本記事では、L-AIRの概要や背景、その思想について紹介したい。
なお筆者自身も、2024年春よりこのレジデンスに参加しており、活動の記録や考察は、今後 noteにて継続的に発信していく予定である。

L-AIRは、「L – A(ARTIST)I(IN)R(RESIDENCE)」の頭文字を冠したレジデンス事業であり、2024年、一般社団法人L-AIRによって設立された。拠点は、日本の皮革産業の主要地である兵庫県姫路市・高木エリア。この地域では、千年以上にわたり革づくりが行われてきた歴史があり、現在でも国内で流通する皮革のおよそ7割が姫路で生産されている。

とはいえ、姫路の皮革産業は知る人ぞ知る存在であり、全国的にはまだその価値や魅力が広く知られているとは言い難い。L-AIRは、そうした状況に対し、アートという切り口から光を当て、伝統技術と表現との新たな接点を模索するレジデンスとして機能している。

このプログラムの特徴的な理念のひとつに「“鞣(なめ)す”的な思考」というのがある。
「鞣す」という行為は、もともと動物の皮を、柔らかく、しなやかで耐久性のある「革」へと変容させる工程である。そこには単なる加工を超えた、素材との対話的な関わりが含まれている。
L-AIRでは、この鞣すという行為を、より広義な創作的姿勢に見立てている。今あるものに丁寧に手を加え、未来に向けて新たなかたちへと変えていく、変容と思考のプロセスを“鞣し”と捉えるのである。

プログラムに選出されたアーティストは、約1.5〜3ヶ月のあいだ姫路市高木に滞在し、地域に触れながら、リサーチおよび制作活動を行う。職人との対話、工房の訪問、素材との実験などを通じて、皮革を媒介とした新たな表現の可能性を探ることが期待される。
- 皮革を使って、どのような新しい表現が探れるか?
- 皮革という素材を、異なる技術・表現・素材とどう組み合わせられるか?
- 皮革という視点から、未来のライフスタイルや環境をどう思考できるか?
いずれも、素材に根ざした創作と、現代的な問いとの交差を促す設計となっている。
ただ、L-AIRは、完成された作品や計画を持ち込むための制度ではない。
むしろ、土地や素材と出会い、そこで生まれる違和感や発見に応答しながら、表現の可能性を育てていくことを重視している。

その意味で、レザーという素材そのものに強い関心がある人、あるいは制作において「プロセス」に価値を見出す人にとっては、とくに魅力的な表現の場となるだろう。筆者もまた、レザーという素材は未経験であったが、その「変容の象徴性」や「命と物のあいだの存在感」に惹かれて応募に至った。
実際のフィールドワークや制作のプロセスは、今後 noteでも記録していく予定である。

L-AIRは現在もアーティストを広く募集しており、分野や経験を問わず、素材や土地と真摯に向き合いたいと願う表現者の参加を歓迎しているそうだ。興味を持たれた方は、詳しい情報のわかる公式サイトをご覧いただきたい。
▶︎ L-AIR 公式サイト
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