脳の「未来予測機能」が不安を生む?その不安を和らげるのもまた脳の働き

私たちが日々感じる、不安や恐怖心。それらは一体どこから来て、どうやって生まれるのでしょうか?近年の脳科学研究は、感情のメカニズムに多くの新しい視点をもたらしています。ここでは、「人が不安を感じる理由」と「その不安を和らげる脳の働き」について、探ってみたいと思います。

不安を生む「未来予測機能」とは?

私たちの脳が持つ「未来予測機能」。これが、じつは不安の根本的な原因のひとつだといわれています。前頭葉は、人間の脳の中でもとりわけ発達した部分で、私たちが将来のリスクを予測して対処する能力を支えています。人間はこの「予測機能」によって、危険を回避し、生存のための準備ができるようになったわけです。しかし、この未来を予測する能力があるがゆえに、私たちは「将来どうなるか」「もしも○○だったら…」と心配したり悩んだりしてしまうのです。

たとえば、リスは越冬のためにどんぐりを集めますが、何年も先の未来を心配したり、「自分の死」を意識することはありません(たぶん)。しかし、人間の前頭葉の発達によって私たちは、より長期的な予測ができるようになりました。その結果、時に「死」や「老い」といった自分の存在の終わりを意識するようになり、それが不安や恐怖の原因にもなっています。

未来予測機能が役立つ一方で、心を苦しめることも

前頭葉による未来予測機能は、私たちが生き延びるために非常に有益です。たとえば飢餓や危険を察知して避ける、状況に備えることができるためです。しかし、この高度な予測能力が私たちの不安やストレスの原因にもなっています。必要以上に未来を思い悩んでしまい、時には悲観的な考えにとらわれてしまうこともあるでしょう。

「生存のための機能」が、時に私たちを追い詰める原因にもなり得る。これは脳が抱える矛盾といえますが、じつはこの「不安を和らげる働き」も脳には備わっているのです。

「不安を和らげる脳の仕組み」――側頭葉の役割

脳は不安や恐怖を生むだけでなく、それを和らげる仕組みも備えています。これを担うのが「側頭葉」という部位です。側頭葉は、感情や記憶に関連する部分で、この内側には記憶を司る海馬や情動を司る扁桃体があり、これらが活発になると前頭葉が静まり、不安が和らぐのです。

とくに「瞑想」や「祈り」のような行為を通じて側頭葉が活発になると、前頭葉が穏やかになり、私たちは安らぎや安心感を得られるようになります。

こうした心の落ち着きが宗教的な儀式や瞑想で得られる理由も、側頭葉の働きが関わっているからです。ある種の宗教的な儀式や瞑想の最中に感じる「神聖さ」や「宇宙と繋がっている感覚」も、この側頭葉の働きによるものなのかもしれません。

「神と一体になる感覚」も側頭葉の働きかもしれない

1996年に「神の内なる脳」という書籍を発表したマシュー・アルパーは、瞑想中や特定の薬物の摂取によって側頭葉が活発化すると、私たちは「自分が世界や神と一体になったような感覚」を味わうことができると指摘しています。この研究によれば、側頭葉が発達した人間は、過剰な不安や恐怖心を鎮めるメカニズムも自然と発達させているのではないか、ということがわかっているそうです。

アルパーは、「側頭葉が進化した集団は、未来の不安や死への恐怖を乗り越える術を得た」と考えています。人間の宗教観や安らぎを感じる能力も、こうした不安に対抗するための「脳の仕組み」として進化してきたのかもしれません。

不安にとらわれやすいと感じるとき、側頭葉を活用してみる

私たちが未来の不安や恐怖を感じやすいのは、実は進化の過程で「前頭葉の未来予測機能」という便利な能力を得たからです。しかし、同時に私たちの脳は「側頭葉」によって不安や恐怖を和らげる方法も持っています。瞑想や静かに内省する時間を意識的に取ることで、脳は自然に心を落ち着ける準備を始めてくれるのです。

こうして進化の過程で私たちが得た「未来予測機能」と「安心感を与える機能」を上手に使い分け、バランスをとることが、私たちが心穏やかに生きるための鍵になるのかもしれません。

この本を読みました。絶版だけど、たまに中古で売られています。
瞑想する脳科学 (講談社選書メチエ 498) 

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