1日に100人近く――日本では日々これほどの人が自ら命を絶っています。今回は、自殺に至る心理的プロセスとその対策について考えてみたいと思います。また、「自殺」と「自死」の違いについても触れ、両者の意味を整理します。
「死ぬしかない」と思い込まされる心理とは
自殺に至る人の多くは、周囲に助けを求める余力がなく、コミュニケーションの機会を断ってしまう傾向があります。このように視野が極端に狭まり、「死ぬしかない」と思い詰めてしまうと、自殺は周囲にとって“突然の出来事”として受け止められることがほとんどです。
とりわけ、うつ状態が自殺の一因になることはよく知られています。
うつ状態は脳が極限の疲弊状態であり、「解決策を考える」余力も視界から消えてしまい、「死ぬしかない」と思い込んでしまうのです。健全な精神状態では選ばない「自らの死」という選択が、鬱によって視野狭窄に陥った状態で選択される。この状態での死は「自死」とは区別されます。
自死と自殺の違いとは?
「自死」という言葉はあまり耳慣れないかもしれませんが、これは自己の意思をもって、ある目的や信念に基づいて死を選ぶ行為を指します。日本でいえば武士の切腹や、信念に殉じた三島由紀夫の死などが挙げられるでしょう。これは「生き方を貫き通すための死」であり、苦しみから逃れるための「自殺」とは異なります。
自殺を選ぶ人は、苦痛や自己の存在を消し去りたいという思いから、死による「解放」を求める傾向があります。そこには自己の信念や主張よりも、「この状況を終わらせたい」という切実な希望が主な動機となっているのです。
自殺を防ぐ鍵はあるのか?スイスの取り組みから学ぶ
実際、自殺を「防止が可能な社会問題である」とする見解もあります。スイスの取り組みはその例として参考になるでしょう。スイスでは精神疾患へのタブーを廃し、メンタルケアを受けやすい環境を整えた結果、うつ患者が積極的に支援を求めやすくなり、自殺率は低下しました。
自殺の報道方法も見直され、報道の際には「ヘルプライン」や「他の選択肢」を示す情報が必ず付加されるように改善されました。結果として、報道内容を見直しただけで、スイスの自殺者数は10年間で半数にまで減少しています。
日本でも必要な変化――自殺報道の在り方
日本でも自殺に関する報道の見直しは重要です。たとえば、芸能人の自殺が報じられる際、詳細な方法や生前の写真が繰り返し報道されることが多いですが、最近では報道のあとに支援機関や相談先の情報を載せるケースも増えてきました。
スイスの事例が示すように、支援先や選択肢の情報がついた報道には自殺防止の効果があり、同じニュース内容であっても人々の生存に関わる影響を持ちます。
「自殺は防げる」という意識を持つことの大切さ
私たちが少し意識するだけで、日常的なコミュニケーションが自殺の防止に繋がる可能性は少なくありません。ちょっとした声かけや心の支えになる知識が、周囲の人にとって大きな助けになる場合もあります。大きな社会的取り組みがなくとも、私たちがそれぞれに「死ぬ必要はない」「うつは心の風邪」という認識を持ち、誰かに気を配ることが大切な一歩になるはずです。
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