東京・羽根木「Out of museum」で見つけたジャンルに縛られない美学

「アウトオブミュージアムのさ、」「目玉焼きの、」「羽根木にあるんだけど、」。クリエイティブな人が数人集まると、よく東京・羽根木にある「Out of museum」が話題に上る。それは何か珍しいものを買ったとか、そういう話ではなく、とにかく“行ってよかった”という声なのだ。

▶︎ out of museum (@outofmuseum)

ふーん!じゃあ来た!
東京都世田谷区羽根木にある「Out of museum(アウトオブミュージアム)」。羽根木とあるが、下北沢駅から10分くらい歩いて行くのがたのしい。ほら、すでにフレブルがわたしを待ち構えている。

入ってみると先客が3人、お店のオーナーとお話ししていた。綺麗なイケている青年たちで、オーナーとの会話でなにかとてもインスピレーションを得たようだった。彼らに軽く会釈して店内へ。

店内には、おそらく世界中から集めたのであろう雑貨たちが、所狭しと並ぶ。これだけの数があっても乱雑さを感じず、すべて愛でられるようにうまいこと並べてあり、オーナーの只者ではない感が漂う。そう、わたしは何も下調べをせずにここに来た。

虫の標本や剥製、もしもあなたのお父さんが多趣味であれば、ガレージに眠っているかもしれない雑貨やアートピースたちが、ここでは再編成されて、ディスプレイされている。

あ〜、奥の部屋も見たい。フレブルが行っているから、わたしも行っていいのかな。
青年たちが帰ったころ、「奥も見れるんですか?」とオーナーに聞いてみた。「奥は作業場なので、ごめんなさい、ダメなんですよ」。……ここで作業するんですか!?

ここからは、ずーっとお喋りしてもらってしまった!「Out of museum」オーナーの小林 眞さん。世田谷で、こだわりの品を並べてミュージアムを開いているなんて、きっと情熱的で短気で、ベートーベンみたいな方なんだろうと構えていたのだが、柔和でいたずらっ子みたいな、とても面白い方だった。

小林さんは、90年代には原宿で大変な人気を博した飲食店「Eats」を経営していたらしい。これは渋谷・原宿界隈ではかなり有名なことだ(わたしはおのぼりなので知らなかった)。

さらに飲食店をされる前、若き小林さんは、ステンシルTシャツを作って売っていたそうだ。時代的にはヒッピーブームの終わりのほうだよ、と語る。このTシャツも当時、1日100着というバカ売れを誇り、ワンカルチャーを築いている。次第にそのセンスから店舗のデザインや舞台美術を依頼されるようになり、そうすると小林さんは世界に出て「好きだと感じるもの」を吸収して帰ってくるというのをはじめたそうだ。そうして集まったもので「Out of museum」はできたし、それをご自身の作品にも反映させながら、生きてきたという。

「デザイナーさん、なのですか?」すこしくらい予習をするべきだったと後悔しながらも、質問したところ、「何者でもない」と返ってきた。

小林さんは、昔から、何者にもなりたくないと思っていたらしい。

「Out of museum」の店内に溢れる品々もジャンルレスで文脈がなく、これを持っていると評価されるという理由で揃ったものではないのがわかる。どれも小林さんの純粋な審美眼を通して集められたものだ。「好きだと思ったものを素直に受け入れる」のが小林さんのスタンスであり、この空間を唯一無二のものにしている理由だろう。価値基準に縛られることなく、不思議なことにただそこにあるだけで輝いて見える。

会話の中で、「愛していない人からの仕事は受けない」と話してくれたのも忘れられない。「好きじゃない人や、好きじゃないことを相手に仕事をすると、やっぱり自分も傷ついちゃう。だから、好きな人のために作るのが一番いい」。

その言葉に、わたしは思わず背筋を伸ばした。「生活のため」「仕事だから」なんとなくこなしてきた日々が頭をよぎる。小林さんはそうした一切の「なんとなく」から自由だ。その潔さは、どこか眩しいほどだった。

明るく、軽やかに、でもしっかりと大地に根を張っているようなその姿に、ただ憧れながらわたしは店を出た。「Out of museum」は、カルチャーに関心を持つ層に注目されている。しかし、洗練されたおしゃれなモノが集まる場所であると同時に、好きなものに素直であることの大切さを思い出させてくれる場所だ。そして、そこにいるオーナー自身がその姿勢を体現している。

好きなものをジャンルや評価基準に縛られずに選ぶこと。それは、簡単なようでいて難しい。できているようで、できていない。そんな気持ちを抱きながら、わたしはまた下北沢駅への道を歩き出した。

▶︎ out of museum (@outofmuseum)

Out of museum(アウトオブミュージアム)
所在地:
東京都世田谷区羽根木1-8-1 羽根木マンション1F
営業日・営業時間:金〜日曜 / 13:00〜19:00
公式Instagram:@outofmuseum

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