生まれ損ない、育ち損ない、死に損なって、生まれなおす。我の強い人間というのは、これを一生のうち何度も何度も繰り返す。これでだめになってしまう人もいれば、自分との信頼関係が強固になり最終的に「なんか強えやつ」になる人もいて、これは“発達した”と言える。
自分でも嫌になるし、さらに側からすればみっともなく、何をフラフラしているのかと思われて仕方ないようでも、本人はそうせざるを得ず、のんきに見えても必死でやっているのだ。
こうみえて、必死なのだ。
2024年11月、福島県南相馬市にある「サウナ発達」へ行ってきた。インスタグラマーの友人のお呼ばれに付き添う形である。

東京からのルートは意外とスムーズで、大宮から新幹線で仙台まで1時間、そこから常磐線に乗り換えて1時間、原ノ町駅で降りる。駅から20分ほど歩くと民家の中に「サウナ発達」があった(バスも通っている!)。
外観は普通の民家なのだけど、中に案内されたとき、わたしは即座に思った。「東北のヒッピーの家に来たぞ!」。


わたしは10代の頃に2年ほど東北で暮らしていたことがあり、そこでは地元の工芸家たちとよく話し、サイケなクラブに通ったりしていた。
彼らは「良い」と感覚的に思うものをいつでも堂々とコレクションしており、それらは世界中から集められている一方で、近場の浜などから調達されてくることもある。情報やジャンルにこだわらず、すきなものをシェアし合う文化は、わたしにとって非常に心地よかった。

「サウナ発達」の支配人、川口さんが現れた。ここで「おお、やはり!」と、懐かしい気持ちになったのは、別に失礼なことではないと思う。



「サウナ発達」は、地域と人々の成長を支えるという独自のコンセプトをもつ施設。敷地内には3つ建物があり、サウナと宿、飲食店に分かれている。サウナのみの利用もできるが、宿泊もできるし(朝夕食事付き)、飲食店では地元の食材を使った家庭料理を食べられる。
宿泊施設名は「巣」。震災で倒壊した実家を修繕し、一部に災害ゴミを利用しながら完成した家なのだそう。鳥か動物の巣のような棚や内壁が楽しい。棚は段ボールを芯にしていると、川口さんが教えてくれた。
巣にはカタンなどのボードゲームや漫画・本、CDなどなど、どこから手をつけたらいいかわからない量のお気に入りがひしめいている。
ひととおり巣を見せてもらったあとは、サウナのある離れに案内してもらうことになった。

離れの2階にある更衣室に荷物を置き、階段を降りると、水風呂、露天風呂、サウナルームとある。

綺麗な水風呂。古今東西から集まってきたのであろうマスクが、一斉にこちらをみている。

露天風呂の雰囲気も抜群だったが、いくら写真に撮っても映えなかったので途中でやめてしまった。露天風呂向かいの“整いスペース”は、シャリシャリの畳。木やビーズでできた暖簾がカラカラ揺れて、棺桶もあった。(入ろうとしたら、先客がいた)。


水風呂の水には鉄分がたくさん含まれているとのことで、顔を近づける途中からもう鉄の香りがして、触るとトロッとしている。洗い場の方まで流れて、溜まった水たまりは、鉄の影響で赤い。
サウナは、土を主素材に使用した洞窟風で、流木を固めてつくった巨木が生えている。照明は最低限、温度90~93度、湿度約60%の環境、「古代人が本気でつくったサウナ」という感じ。施設のあちこちに全国のサウナ同好会のステッカーが貼られており、ここがどれだけサウナーたちに愛されているかがわかる。

ぜひ、行ってみて驚いてと言いたいところだが、写真はインスタにめっちゃあがっている。しかし事前情報があっても、実体験には敵わないと自信を持って言える。ちょっと写真で見るのとは、角度が違うのだ。
じつはわたし、今回がサウナ初体験のペーペーのため、うまく説明ができていないと思う。詳しいことは、公式サイトをみて確認していただきたい。
▶︎「サウナ発達」公式サイト

サウナを体験して、2階にある更衣室へもどってくつろいでいると、おそらく画集から直接切り取ったであろう絵画が、壁一面に貼り付けてあるのが目に入った。ちなみに、同階のトイレはこれである。

あ……、「キーチ!」だ。しかも、あの感動的な“ピーナッツバター”の名シーンではないか。
先にも書いたとおり、わたしの10代、とくに東北で過ごした2年間は、自分の感性を形作る上でかけがえのない時間であった。「良い」と感じたものを惜しみなくコレクションし共有し合う、自由で豊かな環境の中では、すきなものを純粋に「すき」と表現できる解放感があった。
やがて上京し、都内のギャラリーで作品を発表するようになると、洗練された都会の空気や、同年代の美大生たちの磨かれた感性に圧倒され、自分の未熟さを感じた。評価を得るために、作品の見栄えを意識して体裁を整えるようになった結果、注目を集める機会は増えたものの、どこか窮屈さが伴うようになった。

それは、かつて自分の中にあった「すきなものをすきと言う感覚」や「じぶんが心から満足できるものを作る喜び」が薄れてしまっていたからにほかならない。
そんな中、「発達」で東北のルーツにふたたび触れる機会を得たのは転機だった。純粋な感性に従って作ること。それこそが自分の本質であり、作品を通して人の心を動かしてきた原動力だったと気づかされた。内側から湧き出る感覚、という、その原点を思い出し、自分の根底にあった価値観を見つめ直した時間であった。

わたしはたまたま、この雰囲気が自分のルーツにピッタリと合ってしまったのだが、もちろんそうでない人たちにとっても、ここは自分を見つめ直すための特別な空間である。一流のサウナで温かな湿度に包まれながら、体の内側から余計なものを流し去り、自分の心と静かに向き合う時間を持つことができる。
奇抜さばかりではなく、自然素材を活かした独特の空間は、どこか懐かしく、素の自分を思い出させてくれる。そこには評価も体裁もなく、ただ「自分らしさ」を取り戻すための余白が広がっている。
わたしにとって「サウナ発達」で過ごした時間は、東北での感性豊かな日々と都会で得た経験をつなぎ直すきっかけとなった。そして、自分が何を大切にし、どのように生きていきたいのかを改めて考える時間でもあった。
皆さんもぜひ一度、「発達」を訪れてみてほしい。新しい体験を通して、自分自身の声に耳を傾ける時間を楽しんでほしいと思う。そこで得られる静けさと心の解放感が、きっと新たな一歩を後押ししてくれるに違いない。心がちょっと疲れてしまったときや、自分の軸を探したいと感じたとき、ここを訪れれば、心と体がリセットされるはずだ。
サウナ発達
所在地
福島県南相馬市原町区本町3-21
電話番号:0244-26-5160
営業日・営業時間
営業日:年中無休(特別休業日を除く)
営業時間:9:00 ~ 21:00
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