ジム・ジャームッシュ監督がゾンビ映画に挑んだ『デッド・ドント・ダイ』。第72回カンヌ国際映画祭で注目を集め、話題になった本作は、ジョージ・A・ロメロ監督へのオマージュとともに、風刺的な視点が色濃く反映されています。ネタバレを交えながら、本作の楽しみ方をご紹介します。
映画『デッド・ドント・ダイ』の概要
『デッド・ドント・ダイ』には、アダム・ドライバーやビル・マーレイ、ティルダ・スウィントンなど、ジャームッシュ監督と縁のある豪華キャストが集結。彼らが演じる奇妙な田舎町でのゾンビ騒動はどのように展開されるのでしょうか?
ジム・ジャームッシュ流ゾンビ哲学

本作で描かれるゾンビは、ゆっくりと動き、墓地から這い出す姿も古典的なスタイル。近年の速いゾンビに慣れた観客には物足りないかもしれませんが、これはロメロ作品へのオマージュ。ジャームッシュ監督独自の哲学が随所に散りばめられています。
登場人物と豪華キャスト

田舎町の平和な日常がゾンビでかき乱される中、個性豊かなキャラクターたちが登場します。
- ロニー巡査(アダム・ドライバー)
冷静沈着な若手警官。『スター・ウォーズ』や『マリッジ・ストーリー』で知られ、今や世界的人気俳優。 - クリフ保安官(ビル・マーレイ)
ベテラン警官。『ゴースト・バスターズ』のビルがゾンビと格闘する姿は必見。 - 謎の葬儀屋ゼルダ(ティルダ・スウィントン)
日本刀を携える不思議な葬儀屋役。神秘的で独特の存在感が、このキャラクターにさらなる異様さを加えています。 - ミンディ巡査(クロエ・セヴィニー)
唯一の女性警官で、すぐパニックに陥る役どころ。

他にも、イギー・ポップやセレーナ・ゴメスが登場し、作品に独特の色合いを添えています。
あらすじ
物語の舞台はアメリカの田舎町センターヴィル。保安官クリフとロニー巡査が、平和な町で警備に当たっていると、ダイナーで謎の変死体が見つかります。次第に住民たちがゾンビに襲われ、墓地からもゾンビが次々と這い出してくる始末。二人は、謎の葬儀屋ゼルダの存在や異常事態に対処しようと必死で応戦しますが、ゾンビは増え続け、町全体がカオスに包まれます。
ロメロへのオマージュと社会風刺

ジャームッシュ監督は、ロメロ作品の社会風刺をさらに強調し、現代社会への皮肉を込めています。作中のゾンビたちは、生前に執着していた行動をとり続け、スマートフォンを離さない者やゲーム機を抱えたままの者も登場。これは、物に執着し無意識に日常に流される現代人への風刺として描かれています。
作品の特徴と哲学的テーマ

映画のテーマ曲「The Dead Don’t Die」が劇中何度も流れ、登場人物たちが「またこの曲だ」と反応するシーンも。この「繰り返し」の演出は、消費社会の無意味なループや日常への無関心を皮肉っているかのようです。
映画『デッド・ドント・ダイ』を観る際のポイント
本作は、ゾンビ映画とアート映画の要素が融合した作品です。伏線も多く登場しますが、あえて回収されないことが多く、最後まで観客に説明を強いることはしません。伏線回収を期待する人にはやや不満が残るかもしれませんが、この映画のポイントは「すべてを理解しようとせず、楽しむこと」にあります。ゾンビを通じた風刺やメッセージに思いを巡らせてみましょう。
現代社会とゾンビの関係

ジャームッシュ監督は「ゾンビは崩壊しつつある社会の内側から生まれる存在」と語っています。本作はゾンビ映画の形を取りながらも、物や情報に支配され、無意識に流される現代人の姿を描き出しています。ゾンビコメディでありながら、私たちの日常生活や社会の構造に潜む危うさを示唆している作品です。
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