映画『人間の時間』あらすじ解説|キム・ギドク監督が描く「人間の本質」とは?

映画『人間の時間』あらすじ解説|キム・ギドクがえぐり出す「人間の本質」

極限状態で人間の本性が露わになる瞬間——映画ではよく見られる手法ですが、キム・ギドク監督の『人間の時間』は、まさにその究極形。2020年公開の本作は、極限の状況に追い詰められた人間が見せるむき出しの欲望を鋭く描きます。本記事では、ストーリーの解説と、キム・ギドク監督が込めた意図について掘り下げていきます。



映画『人間の時間』の概要

(C)2018 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.

退役した軍艦でのクルーズ旅行。そこに乗り込んだのは、若いカップル、政治家とその息子、ギャングや老人などさまざまな立場の人々。船内はすぐに人間関係が絡み合い、裏の顔が見え隠れし始めます。酒に暴力、性が絡む中、次第に乗客の欲望がむき出しとなり、船上は閉ざされた空間の中で渦巻く緊張感に包まれていくのです。

豪華な日韓キャスト陣が共演

本作には日韓の名だたる俳優が集結。主人公イヴ役には藤井美菜、彼女の相手役であるアダムを演じるのは韓国の人気俳優チャン・グンソクが熱演。さらにイヴの恋人役としてオダギリジョーが登場し、親交の深いキム・ギドク監督との特別な関係が話題に。加えて、アン・ソンギ、イ・ソンジェ、リュ・スンボムといった実力派俳優が脇を固め、物語に重厚感を与えています。

映画『人間の時間』のあらすじ

(C)2018 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.

映画は、異なる背景を持つ乗客が揃ったクルーズ船で始まります。恋人同士のイヴ(藤井美菜)とタカシ(オダギリジョー)、議員(イ・ソンジェ)と息子(チャン・グンソク)、ギャング、謎の老人(アン・ソンギ)などが同船し、異次元へ迷い込んでしまいます。行き場を失った船内で、次第に心の中の欲望が噴出し、絶望と混乱が乗客たちの間に広がっていくのです。救助の望みが絶たれた時、各々が繰り広げる行動は残酷で衝撃的なものに変わっていきます。

極限状態が浮き彫りにする「人間の本性」

(C)2018 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.

限られた空間で徐々に人々の欲望があらわになり、互いに衝突していく様子は、まるでサバイバルドラマのよう。キム・ギドク監督は、自然や人間関係の枠を越えて人間の本性に鋭く迫ります。果たして、この閉鎖空間での人間の「本質」とは何なのか——監督は冷徹な視点でその問いを突きつけます。

キム・ギドク監督が「人間を憎むのをやめるため」に描いた作品

映画の冒頭で、監督自身が本作の意図を次のように語っています。

「世の中は恐ろしくも残酷で、悲しみに満ちている。ニュースで毎日のように報じられる残虐な事件を通して、人間の本質に混乱し、憎しみを覚えることが多い。だからこそ私は、人間の苦悩や残酷さを自然の一部として捉え、この映画を作ることで『人間を憎むのをやめる』という答えを見出そうとした。」

キム・ギドク監督は長編23作目となるこの作品で、改めて「人間の本質」というテーマに立ち返っています。人間が持つ残酷な一面や、倫理に反する行動が続出するものの、それもまた「自然の一部」として受け止めようとする視点が、本作の根底に流れているのです。

現代社会に投げかける問い

(C)2018 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.

『人間の時間』では、キム・ギドク監督が人間の本性に問いを投げかけています。暴力や欲望がむき出しになるさまを映し出し、人間のダークサイドを鋭くえぐる一方で、それを単純な「悪」として片づけない視点が、この作品の魅力であり難解さでもあります。

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